羽衣伝説
その昔,余呉湖の西の地に桐畑太夫という男が住んでいました。ある日のこと,湖に舟を浮かべて遊んでいた太夫は,北の湖畔に一人の美しい女がたたずんでいるのを見つけ,あまりの美しさに舟をこぎ寄せて,木陰からそっと見ていました。その女は,いい香りのする羽のような衣を柳の枝に掛けて,湖に入って水浴びを始めます。何を思ったのか,太夫は,手を伸ばして枝に掛かっている衣をふところに隠してしまったのです。
何も知らないその女は,湖から上がると衣がないのでたいへんおどろきました。そこへ太夫が現れて,美しい女にたずねます。
「あなたは,いったいどこの人ですか?」
「わたしは,天女です。あまりにこの湖が美しいので,年に1回,水浴びに来るのです。でも,大切な羽衣をなくしてしまって,わたしは天に帰ることができません。」
哀しむ天女に太夫は,
「代わりにわたしの家にある着物をさし上げましょう。」
と言って,家につれて帰りました。
やがて二人は夫婦になり,元気な子供が生まれました。この子こそ,のちの菅原道真公だといわれています。ある日,天女は無くしたはずの羽衣を家のうらに積み上げてあるわらの中から見つけ,それをまとって涙ながらに天に帰ってしまいました。その天女が水浴びをしていたときに,羽衣を掛けたという柳の木が、この写真のバックの木です。